Column(PC)

eスポーツなんてきらいだ!!

伊達 三吾

とは言うものの、eスポーツは文化として独自の発展を遂げ、ビデオゲームの社会的地位向上に大きく寄与した。
身近な情報で申し訳ないのだが、団塊世代の知人や家族も、ここ数年で少なくともビデオゲームに否定的な目線を持たれることは減ってきているイメージだ。
だから別に「eスポーツは悪だ」とか「eスポーツは害だ」などと否定するつもりはない。
実際に自分もeスポーツを見るし、現にeスポーツのおかげで大っぴらにビデオゲームが好きだと言える機会が増えて大変喜ばしいものである。

しかしながら私はeスポーツがきらいだ。
eスポーツとビデオゲームが一緒くたにされて見られることがきらいだ。
何でもかんでもeスポーツにしてしまうような流れがきらいだ。
eスポーツという夢を押し付けてしまうことがきらいなのだ。

eスポーツはビデオゲームというカテゴリにもう収まらない

eスポーツとはショービジネスである。ビデオゲームも同じショービジネスに含まれるが、ユーザー側に提供しているものが違う。

今のeスポーツがユーザー側に提供しているのはゲームではない。
eスポーツ選手やチームが行うプレイをエンターテイメントとして提供しているのだ。

eスポーツにおいて、ビデオゲーム自体はただの劇場、演出空間に過ぎない。
ビデオゲームの対戦形式、レギュレーション、ヒーローやオペレーターやユニット、諸々のゲームバランス、PC機材。
そういったのものはすべて舞台機構である。
ユーザー側は劇場であるビデオゲームというよりは、そこに立っている演者、選手たちのスーパープレイを見ているのだ。

もちろんユーザーだけではなく、スポンサーや企画側に目を向けると、
時期限定で商品をビデオゲーム内で出現させるより、
会場や選手やチームに公式飲料だったり、機器提供した方がいくらでも宣伝効果やCSR活動の価値が高くなる。

ユーザー側も仕掛ける側も、ビデオゲームではなく人に目を向けるのはeスポーツの特徴だと考えている。

確かにビデオゲームそのものが持っているユーザー数などのゲームパワーが重要だという話が理解できないわけではない。
しかしながら、ビデオゲームが有名でも、広告の打ち方や選手たち、実況周りのマネジメントなど結局は企画力によって成果は上下する。
とはいえ、これはあくまでビデオゲームという見込みの収容人数に対する実際の動員数という話なので、
いくら動員数を増やす取り組みをしても、ビデオゲームそのものが持っている見込みの収容人数以上、身の丈を超えた成果なんて中々難しいのだが。

ここまで書いてきたように、eスポーツはビデオゲームから、選手やチームなど人主体の文化へ変容した。
だからこそ、eスポーツはeスポーツとして、ビデオゲームとは別のものとして捉えるべきなのだ。

ビデオゲームを「見る」ということは存在しない

eスポーツが、ビデオゲームではなく人を主体の方向性となった要因として重要なものがまだある。
それは、ストリーミングに対する敷居が下がり、選手やストリーマーたちの個人ブランドが成立する時代になったということだ。

投げ銭、スーパーチャットというシステムの登場。携帯回線に始まるネットワークの進化はゲームに対する接し方も劇的に変化した。
いまやビデオゲームはプレイするものではなく、動画サイトで見ることが主流になっている。

だがそれはビデオゲームを「見ている」のではない。
ビデオゲームを「他人を通して」見ているのだ。
つまり「ビデオゲームそのものを見ている」のではなく「ビデオゲームをプレイしている人を見ている」ということである。

そもそもビデオゲームを「見る」行為は存在しない。
以前「ゲームは焼き魚である」という文章を投稿した。
https://note.com/datedate3513/n/n5b5a9d7526e9
ビデオゲームはインタラクティブ性があってこそのものである。
だからビデオゲームとユーザーが対するときは「見る」という受動的なものはなく、
「プレイ」するという能動的な意思があって成立している。

プロゲーマーのストリームや解説動画、Youtuber・Vtuberのビデオゲーム配信・考察動画やビデオゲームを映画のようにまとめたもの。
それだけではなく、ビデオゲームのレビューや批評といった文章として成立しているもの。
これらは「私とビデオゲーム」だけの空間ではなく「私とビデオゲーム」の間に他者が介在している。

自身がビデオゲームをプレイするという行為以外は「ビデオゲームをプレイしている誰か」を見ているということなのだ。
私はこれらを「悪いものである」という趣旨で書いているわけではない。
それぞれ文化として成立するべきであるという話、そして互いに尊重すべきだという話なのだ。

1つのビデオゲームというものがあって、何も知覚せずにビデオゲームを買うことはあり得るだろうか。
まったくもってあり得ないのである。

購入するまで、絶対に他者が介在している。
それは例え開発者が出したPVやビデオゲームの説明文に対しても前述と同じことが言え、
PVやビデオゲームの説明文は、結局のところ開発者自身が自分のビデオゲームに対して「そう見えている」内容でしかない。
しかしそういう言ったものを見て惹かれて初めて購入するのである。

実際の販売本数に対して、PV・ユーザーの動画投稿・ストアページやレビューを閲覧したユニークユーザーを合算したものを比較した時、
閲覧したユニークユーザー数の方が販売本数より多いのは明らかである。

なぜならば金を払って未知のものを購入するより、他人を通してある程度輪郭を象ってから判断した方がハードルが低いからだ。
一方で、その輪郭に当てはまっていたかどうかは実際に自分が体験するしかない。
「ビデオゲーム」と「他人を通して知覚したビデオゲーム」はイコールではない。
そしてこれらは、それぞれが単独で存在している文化だということを考えねばならない。

夢を追いかけるばかりがビデオゲームではない

eスポーツの社会的認知が進み、ストリームという文化も幅広く普及した。
そういったことが幅広く知られることで、自分もそうなりたいと夢見て追いかける人も多い。

しかしながら、夢を追いかけるばかりがビデオゲームではない。
全員が全員プロ選手を目指したり、ストリーマーになることを夢にしたりはしないし、
しないからといって非難されることはあってはならない。

ビデオゲームはインタラクティブな総合芸術であると私は思う。だからゲームに対する論考を書く。
だがそれは夢だ。私がそうであって欲しいというだけの夢だ。そんな夢が無くても、ゲームは消費する娯楽として存在している。

自戒の念も込めて書く。情報を発信する側は、どこか心の中で「上へ上へ」という上昇志向を持ち夢を説きがちだ。
しかし、夢なんてものはしょせん幻想であり、フィクションなのだ。

どれだけビデオゲームがeスポーツやストリームなど他の文化に発展していっても、
結局のところ、ビデオゲームそのものは消耗品であり、娯楽でしか過ぎない。

だからこそ、娯楽を娯楽として、日常生活における暇つぶしとして使うユーザーがいることを否定してはいけないのだ。
なぜならばそれがビデオゲームなのだから。

ビデオゲームを楽しもうとすることに、eスポーツは必要ではない。
ビデオゲームの評価軸にeスポーツを入れてもいけない。誰もが最強の夢を追い求めるわけではないからだ。

私はビデオゲームというそもそもの味がするものに対して、また別のことで面白さを付随するeスポーツやゲーム動画というのは「人工甘味料」であると思っている。
もちろんそれは悪いわけでは無い。別の文化として評価するなら何も悪いことでは無い。

しかしながら、eスポーツやゲーム動画方面の視点からビデオゲーム自体を評価しようとするのは間違っている。
そういった視点で「面白い」と評価するのは「ビデオゲームをプレイしている人」を評価しているに過ぎない。
ビデオゲーム自体の評価ではない。
それでもビデオゲームの評価だと勘違いするのは、人工甘味料の甘さに慣れすぎて、素材本来の甘さが分からないからないだけだ。

重ねていうがそれらの「人工甘味料」が悪いわけでは無い。人工甘味料を素材本来の味と誤認してしまうのがいけないと思っている。
事実、それらの「人工甘味料」がないとビデオゲームを摂取出来ないユーザーもいる。
ビデオゲームを買いたくても買えない、コンシューマーやPCがない、そういうユーザーにとってはeスポーツやゲーム動画は身近にゲームに触れることできる機会だ。

彼らにとっては、その時その時に触れることができる「人工甘味料」こそが本当の甘さなのである。
個人的には実際のビデオゲームもプレイしていただき、素材の甘さというモノを共有したい。
しかし彼らにとって、ビデオゲームという本当の甘さを突きつけることが本当に正しいことなのだろうか。
人口甘味料という理想の味が既に取り込まれている以上、彼らはビデオゲームそのものの味を感じ取ることは出来るのだろうか。

eスポーツ・ストリームという文化は、今では分かりやすさ、浸透しやすさ、経済効果、それら全部をもって、ビデオゲームの評価を変える力を持ちつつある。
いや、正しく言えば、ビデオゲームの評価自体そのものをすりかえつつある。

私はeスポーツを基準にして下されたビデオゲームの評価を参考にすべきだとは思えない。

ビデオゲームはビデオゲームで存在するべきだ。eスポーツはeスポーツとしてビデオゲームと別の文化として存在するべきだ。
そういった分別がない今はまだ、私はeスポーツがきらいである。

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